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腕利きのこん身の仕上げに注目!
馬のしつけのポイントを以前、何人かの厩舎関係者に質問したことがある。さまざまな答えが返ってきたなかから、今でも記憶に残っていることのひとつを紹介したい。「怒ってもいいタイプかどうかの見極めが大切。厩舎に入って来る前に検疫馬房で見た時点で、こいつは怒れない馬だなって感じることもある」これは人間の子供の教育にも共通することだと思う。いろいろな経験に基づいた、ベテランならではの含蓄のあるコメント。発言の主は田中清厩舎の蛯名幸作厩務員だ。
いつも朗らかで笑顔を絶やさず、仕上げはビシッと―。蛯名さんは、私が取材現場に出てからの期間でも、思い出せるだけでトーホウシデン、グルメフロンティア、タイキリオン、サクラアカツキ、リワードアンセルといったオープン馬を担当してきた。70年の桜花賞馬タマミは、獣医師や装蹄師からは競走馬になれないと言われたほど故障がちな一頭だったが「自分には何か、最初から引きつけられるものがあったんだよ」と懐かしむ。
青森県の実家には2頭の馬がいて、子どものころから触っていた。兄の幸吉さんに誘われ、府中で厩務員の職に就いたのは21歳。最初に担当したヤマノセカイという馬は忘れられないという。ヒザに水がたまるなど故障ばかりで、なかなかレースに使えず脚元を焼いたり冷やしたりの繰り返しだったこの馬が、世話のかいがあり競走馬になるとすぐに2勝を挙げた。
「馬は口がきけないのに、手をかければかけるほど、いろいろと恩返しをしてくれるからね」そんな厩務員人生の集大成が、ホエールキャプチャで参戦する今週の秋華賞。レースの5日後に65回目の誕生日=定年を迎える蛯名さんと同馬との信頼関係は、もちろん強固なことだろう。腕利きのこん身の仕上げに注目している。
(関東デイリー・野田口晃)
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