うれしいような、悲しいような電話

　月曜日の夕方、出先から自宅に戻り車を駐車させようとした時に、携帯電話が鳴った。「＋33」と見たこともない番号表示に注意力が散漫になり、ブレーキとアクセルを踏み間違えた。車の前方はボロボロになり、我が家の壁は大破した。大量の外れ馬券をダッシュボードに入れているが、もっと「当たらない」馬券を買わないといけないようだ。

　迷惑電話の主はタナパクこと、田中博康騎手だった。今年の４月からフランスに長期滞在中で、「33」はフランスの国番号だ。「来た当初は言葉が話せず、コミュニケーションが取れませんでしたけど、ようやく日常会話ができるぐらいになりました」とのことで、先週も４競馬場で５鞍に騎乗。少しずつ信頼を得ているようだ。

　そして、「毎年２月が騎手免許の更新なので、今年いっぱいで日本へ戻ります。貯金を切り崩しながらの遠征ですけど、勉強になることが多いから、来年もフランスに行くつもりです。あっ、もうすぐ調教が始まるので、また連絡しますね」と一方的に電話を切られてしまった。

　以前は挙動不審な子犬がミルクを欲しがるような話し方をしていたタナパクだったが、今は自信がみなぎっている“好漢”に成長した。それだけに、「車と壁の修理代、半分払え」とは言えなかった。

（美浦想定班・武山修司）

2011年10月28日