捨てたもんじゃない

　「震災から間もない時に、宮城県の山元トレセンへ行ったんだけど、それはそれはものすごい状況だったよ」と当時を振り返るのは勢司調教師だ。

　「交通がマヒしていて、どうやって帰ろうか、途方に暮れていると、見ず知らずの女性が“乗って行きますか？”と声を掛けてくれたんだ。その言葉に甘えて、電車の動いている駅まで送ってもらい、何とか帰って来ることができたんだ。被災して大変な時に、自分のことを後回しにして、困っている人に手を差し伸べる。なかなかできることじゃないよね。本当に感謝しているよ。人間の本質を見た気がしたね。日本もまだまだ捨てたもんじゃない」と当時を熱く振り返った。

　人間関係が希薄になったと言われる昨今だが、競馬の社会も例外ではない。「オーナー、調教師、厩舎スタッフ、牧場がしっかりと連携し、信頼関係を築けないと強い競走馬はつくれないと思う。俺もまだまだ頑張りますよ」と師。その日は人間の温かさと熱さを実感する日となった。

（美浦調教班・石渡重伸）

2013年03月10日